2026/04/20

美術館がやってきた!愛知県美術館 愛知県陶磁美術館 移動美術館【おでかけAAC】

(写真左)ピエール・ボナール《子供と猫》1906年頃 愛知県美術館蔵
(写真右)左:井村陶器店/川本桝吉(初代または二代)「色絵群鶴図花瓶」明治時代(19世紀)、右:瓢池園/画:泉梅一「瑠璃地金彩鶉図花瓶」1878年 いずれも愛知県陶磁美術館蔵
※「愛知県美術館 愛知県陶磁美術館 移動美術館 クロスボーダー:越境する美術」の会期は終了しました。

アート・文化施設やモノづくりの現場にでかけてレポートする「おでかけAAC」。今回は、2026年2月21日(土)~3月22日(日)に豊橋市美術博物館で開催していた「愛知県美術館 愛知県陶磁美術館 移動美術館 クロスボーダー:越境する美術」へ行ってきました。所蔵品を地域にひらく活動として、年に一度、愛知県美術館と愛知県陶磁美術館がともに取り組む「移動美術館」をご紹介します。

2024年3月にリニューアルオープンした豊橋市美術博物館。緑豊かな豊橋公園内の心地よい場所にあり、おでかけにもぴったりです。

豊橋市美術博物館での移動美術館は、2021年にコロナ禍で開催中止となったため、16年ぶり2回目の開催でした。

 

移動美術館とは?

県内のまちへ、地域の会場へ、もっと身近に鑑賞体験を。愛知県美術館と愛知県陶磁美術館は、より多くの県民のみなさまに両館のコレクションをご覧いただくため、作品を県内各地に運んで展示する「移動美術館」を毎年開催しています。移動美術館は、愛知県美術館が1994年に開始した、愛知県内の市町村と共同で行う事業で、さまざまなテーマによる展覧会に加え、講演会や展示説明会(ギャラリートーク)、学校団体の鑑賞会なども実施。2011年度からは、愛知県陶磁美術館も主催に加わり、より幅広い分野の作品をお楽しみいただけるようになりました。
過去の移動美術館はこちら

(写真左から)愛知県陶磁美術館・佐藤一信館長、美術博物館協議会・飯田祐二会長、愛知県美術館・平瀬礼太館長、豊橋市議会・小原昌子議長、豊橋市・長坂尚登市長の関係者によるテープカットで開幕しました。

2026年2月21日(土)~3月22日(日)豊橋市美術博物館「クロスボーダー:越境する美術」

愛知県美術館と愛知県陶磁美術館のコレクションから、「越境」をテーマに、国内外の絵画や陶磁器など56点を展示。

アメデオ・モディリアーニやピエール・ボナール、藤田嗣治、エミール・ガレなど、有名な作品を無料で気軽に見られる場を提供しました。

記念講演会「移動から見える近代」では、愛知県美術館の平瀬礼太館長、愛知県陶磁美術館の佐藤一信館長が登壇しました。

愛知県美術館でも人気のミュージアムショップのアートグッズも、美しい名画のポストカードや文具を中心に販売。

\ご来場のみなさまからのご感想/

  • 豊橋市美術博物館に所蔵していないものや、普段見られないものが見られるだけで、ちょっとお得感があるというか、面白かったです。瀬戸まで行くにはなかなか距離があるので、美術館が来てくれる取り組みはありがたいですね。
  • やきものや民藝が好きなので、入口の展示に誘われました。益子焼とイギリスの陶器が並んでいるなど、意外な組み合わせから「越境」というテーマを感じられる展示でした。河井寛次郎さんの作品を見ることができて嬉しかったです。
  • ゴットフリード・ワグネルの作品が好きで、じっくり拝見しました。京都の大学時代に河井寛次郎に触れる機会があり、まさかここで見られるとは思わず、著名な作品も多くて驚きました。美術の知識はありませんが、それでも十分に楽しめて、落ち着いた雰囲気のなかで時間をかけて鑑賞できたのが良かったです。
  • 愛知県美術館と愛知県陶磁美術館の館長が二人揃われた、貴重な記念講演会をどうもありがとうございました。
  • 学芸員さんが一つひとつの作品を通して、越境する時代や文化を私たちに投げかけているように感じました。各館の学芸員同士のコミュニケーションや複数の声が重なり合う非常に練られた展示で、絵の配置にも興味がわき、複雑なパズルを解いているようでもありました。愛知にこのような方々がいることを誇らしく思います。会期中にもう一度見に来たいですし、図録化してもらえたら嬉しいですね。世界史を学んでいる高校生が見ても面白いと思いますよ。

 

移動美術館 担当学芸員のクロストーク
【愛知県美術館×愛知県陶磁美術館×豊橋市美術博物館】

(写真左から)愛知県美術館の鵜尾学芸員・白鞘学芸員、愛知県陶磁美術館の鮫島学芸員・大槻学芸課長、豊橋市美術博物館の田中学芸員


「移動美術館」の取り組みについて

鵜尾(愛知県美術館) 今回の会場となった豊橋市美術博物館には、美術がご専門の学芸員さんがおられるので、愛知県美術館、愛知県陶磁美術館と合わせて、3館でアイデアを出し合いながら「一緒につくる」というかたちにしました。今回はまず最初に、「越境」というテーマを田中さんからいただいたことが出発点でした。
田中(豊橋市美術博物館) 「越境」にはいろいろな意味があります。豊橋市美術博物館には、美術だけでなく歴史資料もありますので、ジャンルを越えて交わる、という意味がひとつあります。また、海外の作品はあまり所蔵していませんので、この機会により広い世界と出会える場にできればと考えました。豊橋という地域は、東日本と西日本の境目あたりに位置し、伝統が息づくなかで、さまざまな文化が混ざり合ってきました。そうした地域性も、「クロスボーダー」というテーマにつながります。

 

 

鵜尾 「移動美術館」には“移動”という言葉が入っています。テーマ自体にモビリティ(移動)という意味も込められたらいいなと思い、人や物の移動にフォーカスして考えました。愛知県美術館と愛知県陶磁美術館の収蔵庫から豊橋市美術博物館へ作品が移動する、館から館への移動と、歴史における人や物の移動が重なるようなイメージです。 移動美術館は1994年にはじまり、2011年度からは愛知県陶磁美術館とともに、ほぼ毎年継続してきた2館連携事業です。今回のギャラリートークでは、当館と陶磁美術館の学芸員1名ずつがペアになり、代わる代わる解説を行います(3月8日[日]・3月21日[土]開催)。

田中 今回の展覧会では、日本・フランス・アメリカが大きな流れの中心になりますが、コラムでは陶芸ならではの重要な動向として民藝も取り上げ、イギリスへの思想の広がりや技術的な交流についてもご紹介いただいています。豊橋市美術博物館にも民藝の作品はありますが、愛知県陶磁美術館からお借りしたこれほど質の高い作品をご紹介する機会は、これまでなかなかありませんでした。打ち合わせでは、当館であまり展示したことのないものをお伝えし、エミール・ガレの陶磁器なども出展していただきました。

 

エミール・ガレ/ラオン=レタップ製陶所「ラスター彩荷葉文水注」1877-1884年頃 愛知県陶磁美術館蔵

鮫島(愛知県陶磁美術館) 移動美術館の魅力は、より多くの県内の方々にコレクションをご覧いただけることです。愛知県陶磁美術館はやきもの、愛知県美術館は絵画を中心とする、まったく異なる分野ですから見ごたえがあります。企画を担当する私たち学芸員にとってもお互いに刺激になり、今回も「そういう展示方法をするのか」と勉強させていただきました。
白鞘(愛知県美術館) 愛知県陶磁美術館とのコラボレーションによって、当館の約9,000件のコレクションのなかから、通常のコレクション展ではなかなかご紹介できていない作品にも光を当てることができ、所蔵作品の新たな魅力に気づくきっかけにもなりました。

 


鵜尾 豊橋のみなさまに喜んでいただける作品を選ぶことに加えて、東三河には外国人の方も多く暮らしていることを意識しました。「越境」というテーマのもと、国と国との行き来の歴史にとどまらず、国という枠組みを越えて、トランスナショナルな視点でアーティストの移動を捉えようとしています。画家も海外に不安なく渡っているわけではありません。労働移民のアーティストも取り上げ、国を越えるなかで得たものや葛藤、困難も紹介しています。海外から日本へ来て異文化に触れ、驚きや摩擦を感じている方々が見るかもしれないことも想定しながら展示を構成しました。作品の表面だけでなく、「越境」という観点から作家の思想に触れ、鑑賞を深めてもらえたらと思います。
鮫島 愛知県陶磁美術館に普段来られる方は、もともとやきものに関心をお持ちの方が多いですが、豊橋市美術博物館は豊橋公園内という市民の憩いの場にあります。そうした場所に集う方々に、やきものの良さを感じていただけるよう心がけました。国際芸術祭「あいち2025」では多くの方にご来館いただきましたが、年に一度の移動美術館でも、瀬戸にやきものの産地があり、それが愛知県にとって大切な歴史であることを知っていただきたいです。

 

 

鵜尾 移動美術館は教育普及事業でもありますので、テーマは少し難しいものではありますが、できるだけ多くの方にとってわかりやすいよう工夫しました。すべての作品に解説を付け、美術に特化した専門用語はなるべく使わず、日本史や世界史の流れのなかで美術を見ていただけるようにしました。移動美術館を通して、愛知県内にある美術館を知っていただき、それぞれの館にもコレクションを見に来ていただけたら嬉しいです。
鮫島 陶磁器のタイトルや作品解説はどうしても漢字が多いので、ルビを振るなどの配慮もしています。「やきものは難しい」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、よく見ると可愛らしいモチーフも多く、民藝にも馴染み深いものがあります。少しずつ親しみを持っていただき、「もう少し見てみたい。詳しく知りたい」と思ってもらえるきっかけになればと思います。

 

川本枡吉(初代)「染付雪に子犬図花瓶」明治時代(19世紀) 愛知県陶磁美術館蔵

田中 今回は小学生がバスで見に来ることもありました。やっぱり可愛いものは記憶に残りやすいですし、共感も生まれやすいと思います。会期中には「ビンの中でちょっとだけ越境(クロスボーダー)してみましょう」というコンセプトで、三河、尾張、遠州(湖西)の土に触れて、色や質感の異なる土をガラスのビンに詰めるワークショップも開催しました。アートへの興味が芽生えるきっかけになってほしいです。

大槻(愛知県陶磁美術館) 豊橋のみなさまのお話を聞いていると、作品を見る機会が少ないなかで、とても楽しみにしてくださっていることが伝わりました。同じ愛知県内でも、尾張地方の名古屋や瀬戸から東三河地域は距離がありますので、あらためて移動美術館の意義を実感しています。 

 


愛知県美術館 愛知県陶磁美術館 移動美術館の次回は、2026年10月24日(土)~11月24日(火)豊川市桜ヶ丘ミュージアムで開催します。どうぞ楽しみにしていてくださいね!

展示風景

 

2026年2月21日(土)~3月22日(日)

愛知県美術館 愛知県陶磁美術館 移動美術館 クロスボーダー:越境する美術

※会期は終了しました。

場所/豊橋市美術博物館 展示室3・4

時間/9:00~17:00※初日は12:00から

休館日/毎週月曜日(ただし2月23日は開館)、2月24日(火)

料金/ 無料

詳細はこちら



撮影・編集/村瀬実希(MAISONETTE Inc.)
※ 掲載内容は2026年4月20日(月)現在のものです。

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