2026/06/12
愛知県美術館×愛知県陶磁美術館コラボ展示「コレクション、往来!」学芸員ギャラリートーク
(写真左から)エミール・ノルデ《静物 L(アマゾーン、能⾯等)》1915年 愛知県美術館蔵、中国《加彩騎⾺俑》唐時代(7-9世紀) 愛知県陶磁美術館蔵
2026年4月から、愛知県美術館(県美)と愛知県陶磁美術館(愛陶)は「地方独立行政法人愛知県美術館機構」による運営となりました。これを記念して、愛知県美術館では2026年6月21日(日)まで、歌川国芳展と同時開催の2026年度第1期コレクション展の中で、特集「コレクション、往来!」(展示室5)を行っています。ジャンルの異なる両館のコレクションを取り合わせた特集展示で、異なる文化との出会いをテーマに、物や情報が地域や時代を越えて行き交うさまをご紹介します。
今回は、本展を担当した愛知県美術館の副田一穂学芸員と愛知県陶磁美術館の入澤聖明学芸員によるギャラリートークをお届け。国際芸術祭「あいち2025」を共に担当した二人ならではの掛け合いとともに、展示の見どころをご紹介します。
- 目次 -
「コレクション、往来!」企画の始まりは、学芸員同士の対話から

「ヨーロッパが出会った東アジア」展示風景

副田(愛知県美術館) 2026年4月から、愛知県美術館と愛知県陶磁美術館は二館をひとつの法人が運営するかたちとなりました。その最初のコレクション展ですので、せっかくなら両館のコレクションを持ち寄って、何か面白い企画を一緒にできないかなと組んだ特集が「コレクション、往来!」です。
ただ、お互いの名品を並べるだけでは、それぞれコレクションの方針が違いますので、なかなか単純な響き合いにはならないわけですよね。そこで入澤学芸員といろいろ話し合いながら、両館の作品をつなぐ接点を探していきました。展示は大きく三つに分かれていて、「ヨーロッパが出会った東アジア」「近代から⾒た古代世界」、そして日本・中国・朝鮮半島の関わりに着目した「発⾒、再現、ルーツ探し──東アジアの⽂化往来」をテーマにしています。
地域や時代を越えて、人や物、文化が行き交う。その「往来」の歴史をたどり、そこに美術作品を当てはめていくと、非常にダイナミックな世界史が見えてくるように思います。今回は、そんな視点から作品をセレクトしました。
じゃあ早速いきますか。
1「ヨーロッパが出会った東アジア」
遠く離れた文化は、どう出会ったのか

景徳鎮窯(中国・江⻄省)《⻘花牡丹⽂有蓋壺》明時代後期(16-17世紀) 愛知県陶磁美術館蔵
副田 まずは、やきものの話を入澤さんにしていただきましょうか。
入澤(愛知県陶磁美術館) はい。愛知県陶磁美術館はやきもの専門の美術館で、縄文土器から現代陶芸に至るまで、日本とアジアをはじめ世界各地のやきもの約8,800件を所蔵しています。こうして絵画と並べて展示すると、いろいろな時代感が見えてくるかなと思います。この章では、16〜18世紀頃に中国や日本のやきものがヨーロッパへ運ばれていった歴史を紹介しています。当時のヨーロッパには、白い磁器の上に鮮やかな青で絵付けをする染付(そめつけ)の技術がまだありませんでした。そのため中国から輸入するしかなく、そうした磁器は王侯貴族たちに珍重されていました。その後、中国で政情不安が起こると、代わって注目されたのが日本の有田焼です。伊万里港から出荷されたことから「伊万里」という名称でも知られていますが、ヨーロッパでは多くの人々を魅了しました。19世紀になると万国博覧会を通じて日本の美術や工芸が紹介され、東アジアへの関心はさらに高まっていきます。

(写真左から)エミール・ノルデ《静物 L(アマゾーン、能⾯等)》1915年 愛知県美術館蔵、中国《加彩騎⾺俑》唐時代(7-9世紀) 愛知県陶磁美術館蔵
副田 作品を1点1点ご紹介していると、多分閉館時間になっちゃいますので(笑)、いくつかに絞ってお話しします。この章で面白いのは、ドイツで活動した画家エミール・ノルデの作品です。ノルデは1913年から14年にかけてニューギニア学術調査団に同行し、中国や朝鮮、日本にも立ち寄っています。その際、お土産物みたいにいろいろな面白いものを買って帰るわけですね。この作品には、そうした旅のなかで集めた品々が描かれています。
その中には能面や馬上人物像があり、これらの実物はノルデ美術館に残されています。私が以前から気になっていたのが、この馬の像です。「なんでピンク色なんだろうな?」と思って。今回の展示準備で入澤さんに聞いてみたら、「同時代のもので、愛知県陶磁美術館に似たものがありますよ」と紹介されたのが《加彩騎⾺俑》でした。
副葬品として作られたもので、出土品なので色が剥げている部分もありますが、一部にはオレンジの鮮やかな色が残っており、馬の体は全体に若干ピンクがかって見えます。ちょうどいいサイズ感で、ピンク色の謎が一目瞭然で解ける。そういう発見ができるのも、今回のコラボ展示の醍醐味です。

愛知県美術館が誇るグスタフ・クリムト 《人生は戦いなり(黄金の騎士)》(写真右)は、馬つながりの配置? というわけではなく、金地屏風を思わせる金箔表現からジャポニスムへの関心が見えてきます。
2「近代から⾒た古代世界」
言われてみると、なんとなく似てる気がする?遠い世界に憧れ、ルーツを投影する

エドワード・ジョン・ポインター《世界の若かりし頃》1891年 愛知県美術館蔵

副田 次の章は、時代的には同じ近代を扱っていますが、「近代から見た古代世界」の話です。前の章が物理的に遠い文化だとすると、こちらは時間的に遠い。絶対に行くことのできない世界です。18世紀半ばからヨーロッパ各地で発掘調査が進み、古代のいろいろなものが次々と見つかるようになります。自分たちの文化のルーツについて、それまで伝説や物語で語ってきたところを、実際のものに基づく歴史として語れるようになるわけですね。そこには人々の思い込みも入るので客観的に正しいかどうかは別として、自分たちのルーツを歴史に投影していくわけです。
その一例が、イギリスのヴィクトリア朝時代に活躍した画家エドワード・ジョン・ポインターの《世界の若かりし頃》です。ポインターは大英博物館に何度も通いながら、古代ギリシャやローマの風景を想像して描きました。よく見ると、二人の少女が何かをポーンと投げて遊んでいるんですね。実は私、この遊び道具が前から気になっていたんですよ。何だろうと思って調べてみたら、ヤギや羊などの足首の骨を加工した「アストラガリ」というもので、昔から世界中のいろいろなところでサイコロみたいなおもちゃとして使われていたそうです。ゲームのはっきりしたルールはわからないんですけど、いい感じの向きで何個乗せられるか、みたいな遊びだったんじゃないかなと思います。
さらに面白いことに、この作品を赤外線カメラで撮影すると、少女の指先が少し下向きから上向きに描き直されていることがわかるんです。これがゲームの勝敗にかかわっていたら面白いな…と。

参考資料「アストラガリ」現代 偶蹄目の距骨 個人蔵
入澤 やきものの世界でも、発掘によって見つかった古代文明への関心は非常に大きなものでした。18世紀中葉から進展する発掘を背景に、ヨーロッパでは古代ギリシャへの憧れが強まり、ギリシャ陶器をコレクションすることが一種の文化的教養にもなっていきます。1920年代には日本でもそうした傾向が見られ、収集の記録が残っています。
さらに20世紀になると、ギリシャ文明よりも古い紀元前3000年頃のキクラデス文明にも注目が集まるようになります。当時つくられた彫刻は、人の形をしているのに顔の表現はほとんどなく、鼻だけがわずかにわかる程度です。簡略化されているんですが、洗練されているんですね。
展示しているハンス・コパーの作品も、そうした古代の造形にインスパイアされて制作したものです。ろくろで挽いたパーツを組み合わせながら、古代彫刻を思わせるような芸術品をつくり出しています。

(写真左から)ハンス・コパー《スペード・フォーム》1971年 愛知県陶磁美術館蔵、アピュリア(現プーリア州、イタリア)《⾚像式スキュフォス》マグナ・グラエキア時代(紀元前4世紀) 愛知県陶磁美術館蔵
副田 実はモディリアーニもキクラデス文明に興味を持ち、影響を受けていたと言われています。《カリアティード》はギリシャ建築の女性柱像をモチーフにしているんですけれども、キクラデス文明のさまざまな像も参照していたんじゃないかと考えられています。

アメデオ・モディリアーニ《カリアティード》1911-13年 愛知県美術館蔵
3「発⾒、再現、ルーツ探し──東アジアの⽂化往来」
日本・中国・朝鮮半島の関わり
「発⾒、再現、ルーツ探し──東アジアの⽂化往来」展示風景

副田 ここからは、日本・中国・朝鮮半島の関わりを取り上げています。どうしても戦前の大日本帝国が韓国や中国へ進出していった歴史と切り離せないテーマですね。それはもちろん侵略の歴史でもあるんですけれども、同時に発掘調査が進み、東アジアの歴史や文化が明らかになっていった時代でもありました。負の歴史としての側面もあれば、学術的な発見という側面もある。ニュートラルに評価するのはなかなか難しいんですけれども、実際に出てきたものをたどりながらご紹介しています。まずは愛知県美術館の木村定三コレクションに含まれる朝鮮半島・楽浪郡の出土品から始まり、そこからやきものの話へと続きます。
入澤 発掘調査によって、やきものについても新しい発見が次々ともたらされました。中国や朝鮮半島で古い窯跡や陶片が見つかることで、「どこで、いつ、どのように作られたのか」がわかるようになっていったんです。そして、その発見に刺激を受けた陶芸家たちが、古い作品を研究したり写したりしながら、新しい作品を生み出していきました。
その流れに深く関わっているひとつが民藝運動です。創始者の柳宗悦はもともと西洋美術を研究していた人物でしたが、朝鮮のやきものと出会い、「なんて美しいものがあるんだ」と衝撃を受けます。そして次第にアジアへ目を向けるようになっていきました。当時は近代化の波のなかで朝鮮の建物や文化が失われつつあり、柳はそうした状況に心を痛めながら、民衆が作り上げた工芸品の価値を見出していきます。それまであまり評価されてこなかったやきものにも、新しい価値が認められていったんですね。
副田 今でこそ民藝って何となく素敵なものという感覚が共有されていますけど、当時それを見て「いいな」と思える柳の感性ってすごいですよね。

(写真左から)中国・⽢粛省《彩陶双⽿壺》新⽯器時代後期・⾺家窯⽂化(紀元前23-21世紀) 愛知県陶磁美術館蔵、加⼭四郎《枯れたる花》1953年 愛知県美術館蔵
副田 この加山四郎の《枯れたる花》も、ずっと前から気になっていたんですよ。「この絵に描かれている壺は何だろう?」と。同じ時期の加山の作品を調べると、少なくとも5枚くらいはこの壺を描き込んでいるので、おそらく画家のお気に入りの壺なんでしょうね。一宮市三岸節子記念美術館の三岸のアトリエを復元した展示室にもこの壺があるんです。で、この壺、持ってない? と入澤さんに相談したら、ちゃんと愛知県陶磁美術館も持っているわけですよ。
入澤 中国の新石器時代・紀元前23世紀頃の壺で、いわゆる「アンダーソン壺」です。1914年にスウェーデンの地質学者ヨハン・アンデションが発見したことから、その名前で呼ばれています。当時は中国最古のやきものとして大きな話題になり、日本にも数多く入ってきました。愛知県陶磁美術館には同じ器形の壺が5点ほどあったんですけど、そのなかでも絵に描かれたものに一番よく似たものを選びました。当館の常設展(愛陶コレクション展)では、もっと大きなサイズの黒色の壺も展示していますので、気になる方はぜひ瀬戸にも足を運んでください。
県美と愛陶、二つのコレクションが交わることで生まれる新たな出会い
入澤 今回の「コレクション、往来!」では、普段はなかなか展示する機会がなかった作品も出しました。愛知県美術館のコレクションと並べることで、その魅力がより伝わる展示になったと思います。
副田 確かに名品といわれるものでも、みなさんになかなかお見せする機会を作れず、収蔵庫に眠っている作品もあります。テーマを設定すると、いろいろな作品をたくさんの方に見ていただける機会が生まれるので、またこういう企画はやっていきたいですね。愛知県陶磁美術館のすごくいいコレクションも出ていますし、今後は瀬戸の方に当館の作品を持って行くこともできるといいなと思っています。
2026年4月24日(金)〜6月21日(日)
2026年度第1期コレクション展
場所/愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
時間/10:00~17:00※金曜~20:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日/毎週月曜日(ただし5月4日[月・祝]は開館)、5月7日(木)
料金/ 一般500(400)円、大学生300(240)円、高校生以下無料
※( )内は前売券および20名以上の団体料金です。
※歌川国芳展チケットで、同時開催のコレクション展もご覧になれます。
編集・撮影/村瀬実希(MAISONETTE Inc.)
※ 掲載内容は2026年6月12日(金)現在のものです。








