2024/10/04

愛知県美術館&愛知県芸術劇場コラボで《Re: ローザス!》ダンス×ダンス×ダンス

愛知芸術文化センターは、愛知県美術館と愛知県芸術劇場、愛知県文化情報センター(アートスペース、アートライブラリーなど)からなる芸術文化の複合施設です。美術館と劇場が一つになった施設は全国的にも珍しいといわれ、これまでも美術館と劇場でコラボレーション事業を行ってきました。


2016年には企画展「ピカソ、天才の秘密」の連携コンサートとして、「名フィルで聴くピカソ/ピカソの見た夢」を開催。2020年には愛知県美術館が収蔵した愛知県美術館 エドヴァルド・ムンク《イプセン『幽霊』からの一場面》の公開に合わせて、第七劇場が愛知県芸術劇場と愛知県美術館を横断する作品『ムンク|幽霊|イプセン』を上演。それぞれの専門性を生かしながら相互に連携・協力することで、地域の文化芸術活動の取り組みを充実させています。


そして、2024年7月18日(木)〜9月23日(月・振休)の企画展「アブソリュート・チェアーズ 現代美術のなかの椅子なるもの」開催に伴い、美術館と劇場のタッグが実現。愛知芸術文化センター内の美術館、劇場、パブリックスペースを舞台にした《Re: ローザス!》ダンスワークショップの成果発表の様子をレポートします!

 

愛知県芸術劇場 大ホール(2階)、フォーラム(2〜12階)

 

《Re: ローザス!》とは

ベルギーを代表するダンス・カンパニー、ローザスの記念碑的な作品《ローザス・ダンス・ローザス》の中の椅子を使ったパートの振り付けのレクチャーを公開し、このダンスを踊った映像を募集するというプロジェクトです。2013年に開始して現在も継続中で、ワークショップは世界各地で開催されています。アブソリュート・チェアーズ展の会場では、プロジェクトのウェブサイトに世界中から投稿された700本近い映像の中から半数の約350本をインスタレーションとして構成したものを日本初公開しました。


世界のコンテンポラリー・ダンス・シーンを牽引するローザスの《ローザス・ダンス・ローザス》は、海外で40年以上踊り継がれている作品。1994年に初来日公演を行い、2010年国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2010」でも上演しています。

 

講師はローザス創設メンバーの一人、池田扶美代さん

 

池田扶美代
Fumiyo Ikeda
1979年、モーリス・ベジャールのムードラ(ブリュッセル)に入学。同校でアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルと出会い、1983年に共にローザスを結成。以来、2008年までほぼ全ての作品の創作に携わり出演する。現在はローザスの初期全作品のリハーサルディレクターを務めるかたわら、自身の振付作品を発表。他のアーティストの演劇の作品にも出演、振付を担当している。

 

愛知県美術館 ダンスワークショップ「《Re: ローザス!》を踊る!」

2024年7月23日(火)〜25日(木)開催

この機会に美術館でも《Re:ローザス!》プロジェクトに参加しようとアブソリュート・チェアーズ展の関連イベントとして、愛知芸術文化センターでのダンス映像を撮影するためのワークショップを開催。ダンス経験の有無を問わず、参加者を募集しました。参加者は3つのグループ(A・B・C)に分かれてレクチャーを受講し、最終日には全員が集まって、愛知芸術文化センターのパブリックスペースで成果発表と映像撮影を行いました。経験のない方もできる、椅子に座ったまま踊るダンスということで、10〜60代のさまざまな人たちが挑戦。Bグループには唐津絵理 愛知県芸術劇場芸術監督(アーティスティックディレクター)も参加しました。

唐津監督は、もともと日本初の舞踊学芸員として1993年から愛知芸術文化センターに勤務。大規模な国際共同製作から実験的パフォーマンスまで、企画招聘した作品やプロジェクトはその数200を超えます。2024年4月1日からは主催公演のプログラムの策定をはじめ、企画制作の総括を担う芸術監督(アーティスティックディレクター)に就任しました。今回の企画にもプロデューサーの立場で携わりながら、なんと出演も!一体どのようなパフォーマンスが行われたのでしょうか…。

 

成果発表直前の池田扶美代さんと、アブソリュート・チェアーズ展担当の鵜尾学芸員。

和やかな雰囲気の中に緊張感が漂います。

 

📍愛知県美術館ロビー(10階)


 

 


📍フォーラムⅡ(2階)

 

 

 

 

本番を大勢の人が見守ります。

 

池田扶美代さんと唐津絵理芸術監督。


📍大ホール前フォーラム(2階)

 

 

どのグループも、一つの作品を全員で踊る仲間の一体感が生まれ、会場は熱気に包まれました。音楽や隣り合う人々の動きを感じながら踊る中で、各リーダーからの「せーの!」という掛け声で決めポーズ。パフォーマンスを終えた瞬間には、真剣な表情からホッとした様子になり、達成感が満ちあふれていたのが印象的でした。

 

パフォーマンス直後に湧き上がる大きな拍手。

みんなで記念撮影をして終了しました。


\参加者にインタビュー!/


「クラシックバレエを15年くらいやっています。もともと《Re: ローザス!》のことを知っていて、Instagramの広告に惹かれて参加しました。日常にとけ込む動きばかりで、それが私にとっては新鮮で、新しい発見がありました」(20代女性)


「ダンスの映像作品を見るのが好きで、自分自身もやってみたくなりました。正直、踊れないとダメなんじゃないかという不安がありました。実際はそんなことなくて、わからないところは教え合って、皆さんと一緒になって楽しめました」(30代男性)


「愛知県芸術劇場で、NDT(ネザーランド・ダンス・シアター)の愛知公演を2日間観ました。今回参加したきっかけは、その時にいただいたチラシです。一見シンプルな動きのダンスなんですが、真似するのが難しかったです。池田先生から『間違えてもそれもあり』だと聞いて安堵しました。面白かったです」(60代男性)


\鑑賞者にインタビュー!/


「出演者の母親です。数日間のワークショップでモチベーションが上がったみたいで、『ダンス仲間ができて嬉しい』と話していました。日常の場での発表というのが、いつもと違って良かったです」

 

 

愛知県芸術劇場 池田扶美代-Rosasレパートリークラス Re: Rosas! + α(リ・ローザス・プラスアルファ)

2024年7月21日(日)〜25日(木)開催

愛知県芸術劇場の2024年度ダンサー養成事業の一環として全5日のプログラムを実施し、16歳以上のダンス経験のある方はもちろん、ダンス以外の舞台経験者(ジャンル不問)も対象。近い将来プロのダンサーを目指す人や、現在ダンサーとして活動する人たちが《Re: ローザス!》よりレベルアップしたものに挑戦し、愛知県芸術劇場の大ホールで成果発表しました。

📍大ホール(2階)

 

 

 

 

ダンスワークショップ「《Re: ローザス!》を踊る!」の参加者もステージ上で鑑賞。

 

\参加者にインタビュー!/

 

 

「ベルギーのバレエ学校でコンテンポラリーダンスとクラシックバレエ、スペイン舞踊を習っています。NDTのワークショップを受けた際に知って参加しました。椅子に座っている分、軸がブレる心配はなかったですが、順番を間違えそうで終始緊張感がありました」(熊谷悠さん)


「スペインでダンス留学をしていて、一時帰国中です。普段はコンテンポラリーダンスをやっています。《Re: ローザス!》が大好きで、YouTubeを見ながら練習していました。扶美代さんから直接習うことができて幸せです」(長田知夏さん)


\鑑賞者にインタビュー!/


「ミュージカルや舞台が好きです。身体表現に興味があって観にきました。舞台に上がって鑑賞できるとは知らずびっくりしました。貴重な経験をありがとうございます」

終了後は唐津監督にお話を伺いました。

 

愛知県芸術劇場芸術監督 唐津絵理

「愛知芸術文化センターは日本で初の本格的な複合文化施設ですが、長い間コンクリートが少し冷たい印象を与えていると感じていたため、もっと愛知県美術館や愛知県芸術劇場、さらにパブリックスペースも含めて、センターを多くの方々に開いていくイメージを作っていきたいと思っていました。この4月に愛知県芸術劇場芸術監督に就任して、3か月で組織全体が一体感を持って、一般の方にも開かれた事業を展開できたのはすごく嬉しかったです。

今回参加していただいた皆さんは、おそらく、一個人として参加してくださったように思います。例えば、家庭における母親だったり、企業での会社員としての立場だったり、そうした社会的な役割を超えて、“私” 個人として能動的に参加して、老若男女、経験の有無も問わず、さまざまな方がダンスを楽しんでいたようでした。いくつになっても身体表現に関わることはできます。わずか数日の時間を一緒に過ごしただけで皆さんが仲良くなられていたのは、身体を通してみんなで共に何かを作り上げることで一体感を感じた結果だと思います。一方でそれが外側から強制されたものではなく、各人が主体性をもって参加した、自発的な行為の集まりだったということも重要です。ここでのダンス体験が皆さんの自信になって、明日も元気で頑張ろう!という、未来へのエネルギーに繋がっていくといいですね。今後もこのような事業を通じて、愛知芸術文化センターを少しでも皆様に身近に感じていただけたら幸いです」

また、今回のワークショップのテーマであった『ローザス・ダンス・ローザス』は、唐津監督がこの劇場に入って1年後に東京のBunkamuraのシアターコクーンで初上演された作品とのこと。監督は、実はこのときBunkamuraのインターン生として、劇場制作に関わっていたことから、大変思い出深い作品だったようです。その後の「あいちトリエンナーレ2010」のキュレーターになった際にも、この優れた作品を、ぜひ愛知の方々に観ていただきたいと、愛知県芸術劇場にて単独招聘を行っています。今回「Re:Rosas」プロジェクトとして、この記念碑的な作品が、今回約14年ぶりに愛知に帰ってきました。

 

芸術監督クロストークも開催

7月23日(火)開催

   


愛知県芸術劇場の新芸術監督・唐津絵理が、日本初の舞踊学芸員として長年活動してきた人脈を生かし、複合文化施設・愛知芸術文化センターでさまざまなジャンルで活躍するエキスパートにじっくりお話を伺う「クロストーク」の第1回を愛知芸術文化センター地下2階のフォーラムⅡで開催しました。初回のゲストは、本イベントで大活躍の舞踊家でアンヌ・テレサ・ド・ケースマイケル率いるローザス結成メンバーの池田扶美代さん。池田さんのローザス結成までの過程や初期の作品解説を交えながら、池田さんのダンサーとしての海外でのキャリアやダンスとの向き合い方、代表作であり、本企画の『Re:ROSAS』プロジェクトの元になった『ローザス・ダンス・ローザス』の創作のエピソードなどを語ってくださいました。

 

「《Re: ローザス!》を踊る!」記録映像はアブソリュート・チェアーズ展で展示

※展示は終了しました。

 

完成した記録映像は、アブソリュート・チェアーズ展の展示室内で《Re: ローザス!》プロジェクトの一部として、8月1日(木)〜9月23日(月・振休)まで展示されました。本映像はYouTubeにアップロード(限定公開)プロジェクトのウェブサイトに投稿されているので、ぜひご覧ください。

 

撮影/千葉亜津子
取材・文/Re!na 編集/村瀬実希(MAISONETTE Inc.)
※ 掲載内容は2024年10月4日(金)現在のものです。

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