2026/02/02

愛知芸術文化センター&アートのお仕事 #06 振付家・ダンサー こんな職業あったんだ!? 働く人インタビュー

世の中にはたくさんの職業があり、芸術文化の世界では表舞台に立つアーティストから裏方で支えるスタッフまで、実にさまざまな人たちが関わっています。愛知芸術文化センターで活躍するプロフェッショナルの現場を直撃して、お仕事を紹介する連載シリーズ。日々のやりがいやどんな思いで取り組んでいるのか、普段は聞けない十人十色のリアルな声や視点をインタビューしました。「好きなことを仕事にしたいけど、どうしたらいいかわからない」「芸術や文化に興味はあるけど、どんな仕事があるのだろうか?」 「将来の夢がない。やりたいことがなくて困っている」と、進路選択に悩む学生さんも必見!好きなこととつながる新しい道が見つかるかもしれません。未来のヒントを探してみませんか?

 

今回の働く人
三東瑠璃さん
Ruri Mito
愛知県芸術劇場ダンスアーティスト
ダンスカンパニー「Co.Ruri Mito」主宰

 

東京都出身。5歳からモダンダンスを始め、小学生にして「踊ることで生きる」と意識。日本女子体育大学舞踊学専攻卒業。2017年にダンスカンパニー「Co.Ruri Mito」を結成。20年より「Evoke Dance Studio」代表講師として後進育成にも力を注ぐ。土方巽記念賞(2017)、文化庁芸術祭新人賞(2020)など、国内外で受賞歴多数。25年4月より愛知県芸術劇場ダンスアーティストに就任。

 

Web https://co-rurimito.com/

 

踊ること、創ることは同じ線上にある。根っからの表現者

──現在の活動について教えてください。

三東 ダンサーとして舞台で踊ったり、作品の演出や振付をしたり。それに加え、2020年からは「Evoke Dance Studio」代表講師として、小中学生の子どもたちへモダンダンスの指導をコンスタントに続けています。
1年間を通して考えると、作品を創作している時間が一番長いです。ダンスカンパニー「Co.Ruri Mito」を主宰し、若手のダンサーに振り付けをして作品を上演しています。ここ数年は自分が踊る機会は少ないですが、27年にはソロで踊る予定もあります。
愛知県芸術劇場では、22年にカンパニー作品『ヘッダ・ガーブレル』を上演し、23年には全国共同制作オペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ』にダンサーとして参加しました。25年4月からは愛知県芸術劇場ダンスアーティストとして、作品の創作や公演活動を世界へつなげていく取り組みにも関わっています。
作品を創ることも、踊ることも、私が生きるためのものです。根底にある大きなテーマは、「生きる」ということ。生きるってどういうことだろう?と常に問い続けながら、自分自身が感じてきた生きづらさへ応答するように表現を重ねています。そうして生まれる私のすべての表現は、生かされているということにつながっているように思います。

Co.Ruri Mito 2022『ヘッダ・ガーブレル』は、ノルウェーの劇作家イプセンによって1890年に書かれた代表作かつ世界文学の傑作として讃えられる戯曲を、三東瑠璃の演出・振付によるダンスで表現。
© matron2022

 

2023年3月にCo. Ruri Mitoとして初の海外ツアーへ。チェコ、ルーマニア、フランスの3カ国でグループ作品『住処』、三東瑠璃ソロ作品『Matou』を上演し、各地で高い評価を得ました。
© matron2023

 

──ダンスを始めたきっかけは?

三東 きっかけは保育園の先生の言葉でした。「身体が柔らかいから、新体操やダンスなど、何かやってみたら」と勧めてくださったんです。当時5歳ではっきりとは覚えていませんが、すぐ見学に行き、「やってみたい」と自分から言ったと母から聞いています。その教室はモダンバレエを基本にしていましたが、ジャズダンスや韓国舞踊のレッスンもありました。
学校を休んでもダンスのレッスンには行くくらい、私の中では優先順位が高く、卒業文集に「将来はダンサーになる」と書くほど、とてもやる気がありました。一緒に踊る仲間は、年齢もポジションもまちまちですが、誰よりも足が上がる、回転できるなど、それぞれに得意があります。誰かがいるから、自分を奮い立たせることができる環境が楽しかったです。こういう人生を歩むとは、想像できていませんでしたが、目の前にある道を進んできました。幼少期にダンスを始めた時点で、「踊りで生きていく」ということが決まっていたように感じています。

──どんな学生時代でしたか?熱中したことを教えてください。

三東 小学5年生のコンクールで初めてのソロを踊って、今でも踊れるくらい覚えています。また、小学生から創ることもしていました。ダンス教室のクリスマス会をはじめ、高校生の文化祭などでもソロを踊る枠をもらい、音楽を選んで振り付けを考え、踊りを披露していたんです。創ることと、踊ることが私の中ではかけ離れていませんでした。
日本女子体育大学舞踊学専攻に進学し、先生に「踊れる人は創れないといけない」と言われたのを機に、グループ作品づくりにも取り組むようになりました。大学での創作と、小学生の頃のクリスマス会で創って踊る感覚は違いますが、どちらも今につながっていると思います。
大学の授業でコンテンポラリーダンスを知り、ヨーロッパの大きなカンパニーについて座学で勉強しました。他にも、オープンクラスのレッスンを受けて、いろいろな先生に育てていただきながら、気が合う人とユニットを組んで神楽坂セッションハウスで踊ったり。大学進学を区切りに、5歳から通っていたバレエ教室は辞め、新たな世界へ踏み込んだことは自分にとって大きな決断でしたね。
卒業後は、北村明子さんが率いるダンスカンパニー「レニ・バッソ」に入団しましたが、海外ツアーが多かったため、いろいろな経験ができ、ものごとを見る目が変わりました。

 

大学を卒業して数年経ち、創作活動をはじめた頃(写真上下)。

 

 

終わりがないから楽しいと感じ、続けていける面白さがダンスにはある

──プロとして大切にしていることは?

三東 続けることです。すべて投げ出したい、解放されたいと思うことはしょっちゅうですが、「私は踊りに生きている」という自覚が強くあるからこそ、もし踊りから離れたら自分ではなくなってしまいます。「続けること」と言葉にすると格好良く聞こえますが、辞められないのです。
私は踊りに関して、満足すること、納得することがほぼありません。限界を超えて、新しい自分に出会いたいという気持ちが常にあり、もっと何かできるのではないかと考えてしまうから、やり続けるしかない。一生、納得することはないかもしれないけれど、自分自身をアップデートしていくことが生きがいにもなっています。

 

動物に触れたり、自然に身をゆだねたり——その感覚や時間の流れをダンス作品で表現

三東さんにとって欠かせないものは何ですか?

三東 動物に触れることです。命に触れたとき、自分が解放されて生きている心地がします。大自然に身をゆだねたときも同様で、雄大な景色の中に身を置き、いくらでも居続けられるような感覚も好きです。何も変わっていないように見えるのに、じっと目を凝らして感覚を開くと、何か感じられるような瞬間を作品でもつくりたいと思っています。
雲の動きや湖の水紋……。そんな小さな喜びを見つける繊細な感覚や細やかさは、誰しも持っているのに、忘れられているところがあるのではないでしょうか。私の作品を見れば、それを思い出せるわけではありませんが、きっとみなさんにも響くものがあると希望を持っています。
泣いたり笑ったり感動したり、思いきり感情を出すことも活力になります。体の不具合は自分で治すという気持ちで、あまり道具などに頼ることはありません。

 

愛猫と触れ合って感じた感覚、自分に起きた身体的な影響などを作品の中に反映することも。
© matron

 

24年度は充電期間としてニュージーランドに滞在。生命の根源に触れ、今後の創作のヒントを得たそう。
© matron

 

──三東さんは、2025年4月より愛知県芸術劇場ダンスアーティストに就任されました。10月に愛知県芸術劇場で世界初演した新作『満ちる』についてお聞かせください。

三東 『満ちる』は愛知県芸術劇場ダンスアーティストに就任後、初めて創作した作品です。本作は生きる身体と感覚にフォーカスしたもの。ピアノの原型とされるクラヴィコードの生演奏のもと、4名のダンサーが風、匂い、肌に触れる感覚などを大切にしながら、見えないものを見ようとする試みです。大自然に身をゆだねる心地よさに似た時間の流れを感じることができればという思いを込めました。「作品は観客のためのもの」とよく言われますが、私は自分自身が観たいものであるべきだと考えています。自分がいいと思ったものが時間として流れ、その時間を実際に過ごし、感じたい。私にとって「時間」は、表現のなかで大切なキーワードの一つかもしれません。同じ時間を過ごしながら、観客の方それぞれが、さまざまに感じ取ってくださったらと思っています。
Constellation(コンステレーション)〜世界をつなげる愛知県芸術劇場ダンスプロジェクト〜」の活動の一環として、多くの人が求める見やすさ、ダイナミックさ、わかりやすさを意識した方がいいのではという考えも過ぎりましたが、それなら私じゃなくてもいいと思い直し、自分のスタイルを崩さずに挑戦。これで認めてもらえるように貫き通すという強い思いがありました。

 

愛知県芸術劇場×Dance Base Yokohama×メニコン シアター Aoi パフォーミングアーツ・セレクション2025 Festival Edition 三東瑠璃『満ちる』
© HATORI Naoshi

『満ちる』の稽古風景は集中モード。作品づくりはダンサーたちの特性やカラーを知ることからはじめ、ダンサーから生まれてくる動きを大切にしているそう。


愛知県芸術劇場ダンスアーティストとして、通常の舞台空間を越えたイベントにも参加。「2025年4月の愛知県芸術劇場オープンハウスでは、目の前で楽しみに来てくれるお客さんの反応があり、本来の自分ではないような自分がそこにいる新しい発見がありました」と三東さん。
© HATORI Naoshi


2025年8月の『AICHI NEXT』では、観客と距離が近いオープンスペース(愛知芸術文化センター2階 フォーラムⅡ)でパフォーマンスを披露。誰もが出入り自由で、気軽にダンスに触れられる機会になりました。
© HATORI Naoshi

 

仕事とは「生きることにつながっていること」
ダンスは仕事ではなく、人生そのもの

──では最後に、あなたにとって仕事とは?

三東 すごい難しい質問ですよね。私は本来、仕事をしているつもりはありません。都合の悪いときだけ仕事という言葉を使います。踊ることや作品を創ることは、自分が楽しいから。そこに生きがいを見出しているので、永遠に続けていけるし、繰り返し書き換えることができます。私にとっての仕事は、ゴールが設定された終わりのある作業をすること。ダンスは終わりがありません。終わりがないから楽しいと感じ、ゴールを設定しなければ自分の想像を超えることができて、そのゴールは自分が死ぬときなので、何があるのかもわかりません。続ける面白さがあるダンスはすごいですよね。私はダンスに生かされているし、ダンスと一緒に生きていく人間として、人生を全うするつもりです。
私がやるべきことは、心の底から「良いものを創った」と言える作品をみなさんにお渡しすること。そうすることで、受け取ってくださる輪が広がると思っています。そのためにも、何が自分の本当の気持ちで答えなのか追求していきたいです。人間って、家族や環境、いろいろな人や情報など、さまざまな影響を受けながら形成される曖昧なもの。だからこそ、自分の本心に疑いを持つことも多くなっています。私は常に何かを考えていて、自分を探しています。私が三東瑠璃になるのはいつなのか。ダンスを通して、いろいろな自分を知ることができます。私にとってダンスは仕事ではなく人生そのものです。

紹介した公演はこちら

2025年10月30日(木)

愛知県芸術劇場×Dance Base Yokohama×メニコン シアター Aoi
パフォーミングアーツ・セレクション2025 Festival Edition
三東瑠璃『満ちる』


場所/愛知県芸術劇場 大リハーサル室(愛知芸術文化センター地下2階)

詳しくはこちら


 
2025年12月神奈川公演(会場:Dance Base Yokohama)より

 

愛知芸術文化センター&アートのお仕事
#01 舞台技術
#02 オルガニスト
#03 学芸員/キュレーター
#04 公共劇場プロデューサー
#05 学芸員

 

取材・文/木根和美
撮影・編集/村瀬実希(MAISONETTE Inc.)

※ 掲載内容は2026年2月2日(月)現在のものです。

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