2025/03/11

愛知芸術文化センター&アートのお仕事 #02 オルガニスト こんな職業あったんだ!? 働く人インタビュー

世の中にはたくさんの職業があり、芸術文化の世界では表舞台に立つアーティストから裏方で支えるスタッフまで、実にさまざまな人たちが関わっています。愛知芸術文化センターで活躍するプロフェッショナルの現場を直撃して、お仕事を紹介する連載シリーズ。芸術文化の複合施設ならではの多様性にフォーカスし、日々のやりがいやどんな思いで取り組んでいるのか、普段は聞けない十人十色のリアルな声や視点をインタビュー形式でお届けします。「好きなことを仕事にしたいけど、どうしたらいいかわからない」「芸術や文化に興味はあるけど、どんな仕事があるのだろうか?」 「将来の夢がない。やりたいことがなくて困っている」と、進路選択に悩む学生さんも必見!新たな発見はきっとあるはず。未来のヒントを探してみませんか?

 

今回の働く人
都築由理江さん
Yurie Tsuzuki
愛知芸術文化センター
愛知県芸術劇場
専属のオルガニスト(初代)


 

豊田市出身。15歳より豊田市コンサートホールオルガン教室にてオルガンを始める。東京藝術大学音楽学部器楽科オルガン専攻卒業。同大学院音楽研究科修士課程修了。文化庁委託事業「若き音楽家による企画コンサート2012 with 赤坂達三」に入選。愛知県芸術劇場コンサートホールでの同公演を企画・出演する。2016年ウィーン国立音楽大学オルガン科修士課程修了。17年イタリア・ピストイアの第5回アガティ・トロンチ国際オルガンコンクール第2位。18年愛知県芸術劇場オルガニストに就任。NHK文化センター名古屋教室「ウィーン音楽散歩」講師。

 

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@tsuzuki_yurie

 

“コンサートホールの顔”パイプオルガンとともにある日常。劇場の専属のオルガニストは、表舞台でも舞台裏でも役割いろいろ

──今の仕事内容を教えてください。

都築 愛知県芸術劇場専属のオルガニストの仕事は、大きく分けて5つあります。オルガンを弾くことで楽器のコンディションを整える“弾き込み”をはじめ、当劇場で開催する劇場主催のコンサートの企画・構成、出演、他のオルガニストが出演する場合の立ち合い、若手オルガニストを育てる「オルガニスト養成事業」に携わっています。

 

 

愛知県芸術劇場コンサートホールのオルガンは、パイプ総本数 6,883本、ストップ(音色)93種類、手鍵盤5段+足鍵盤(ペダル)1段。オルガニストはそれを駆使して、たった一人で壮大な響きを生み出します。

      
最もオルガンと向き合う機会が多いのは弾き込みです。オルガンのパイプに空気を通して、楽器の状態をチェックする一番重要な仕事です。週に一度くらいのペースで毎回3〜4時間かけて、曲を演奏しながら違和感がないかをきめ細やかに確認し、オルガンを常に良い状態に保つようにします。繊細な楽器なので、その日の気温や湿度、弾き方によって状態が変わってきます。常にフラットな気持ちで“オルガンの今”と向き合うようにしています。

 

 

「集まれ、未来のオルガニスト」レッスン風景。

 

弾き込みに次いで携わる頻度が多いものとしては、オルガニスト養成事業「集まれ、未来のオルガニスト」です。中学生〜25歳以下の学生さんを中心としたレッスンですね。「将来ここからプロのオルガニストを輩出できたら」という思いで始めて、生徒さんのなかには中学1年生のときから受講し、音楽大学を受験する年齢まで通っている人もいます。ありがたいことにスタッフさんのサポートもあって、想像以上に長く続けられています。半年に一度募集をかけていて、受講生は月に一度、計6回の個別指導を受けていただきます。最終月には発表の場があり、2025年3月12日(水)に2024年下半期の修了試演会をコンサートホールで開催します。

これまで挙げた内容は、主に裏方としてのお仕事になりますが、劇場主催のオルガンコンサートについては、プロデューサーとともに、企画・構成、出演等にも携わります。



主催のコンサートのなかでも、私がステージで演奏するコンサートは、曲によってまちまちですが、早くてコンサート開催の1年前、遅くとも半年前からプログラムを考え始め、2〜3か月前には曲目が出揃います。オルガンはストップ(音色)の組み合わせを行ったうえで、演奏する楽器です。事前にオルガンのストップの組み合わせを決定するレジストレーションという音色づくりも、とても大切な作業。そこにオルガニストの個性が表れます。

 

ストップ(音色)には、それぞれにオーボエ、フルートなどの名称が付いています。ノブを引いて出したい音色を選び、その組み合わせによって作られる音色は無限大!

 

専属のオルガニストとして、コンサートホールのオルガンと向き合い、音色を仕上げていくなかで、普段の弾き込みの経験も活かされているなと感じます。また、私自身がオルガニストとして出演しない場合でもリハーサルの立ち合いから当日のサポートまで関わり、譜めくりとして携わることもあります。


劇場主催のオルガンコンサートの企画も多種多様です。年間を通じて、初級編から段階的に楽しめる「THE オルガンNIGHT&DAY」「オルガン・レクチャーコンサート」「オルガン・アワー ~音のシャワーで心リフレッシュ~」「クリスマスはオルガンだ!」などのシリーズを開催しています。コンサートごとに出演するオルガニストの選定から始まり、出演者からの提案に対してプロデューサーとともに相談しながらプログラムを決めていきます。愛知県芸術劇場が誇る国内最大級のオルガンの多彩な音色をお届けするため、年々、企画自体も新しい取り組みが増えてきました。「オルガン・レクチャーコンサート」もその一つですね。

──2025年度の「オルガン・レクチャーコンサート」は、シリーズで初めて都築さんが演奏・解説を務めます。そもそも、どんな経緯で生まれた企画なのでしょうか。

都築 「オルガン・レクチャーコンサート」は演奏とスクリーンを使った解説を組み合わせたプログラムです。「演奏を聴くだけでなく、知識を深めて、オルガンを好きになってもらいたい」とプロデューサーから相談を受けたことがきっかけで、2019年からスタートしました。新しいことに挑戦したい気持ちは私も同じでした。オルガンの歴史は長く、すべてがオーダーメイドで国や時代によって違うので、レクチャーのしがいがあると思いました。むしろレクチャーがないと、初めてのお客様にはわかりにくい楽器なのかもしれません。

当劇場で、私はこれまで数々のオルガン公演「THE オルガンNIGHT&DAY」「オルガン・アワー」「クリスマスはオルガンだ!」などに出演してきましたが、「オルガン・レクチャーコンサート」は初めてです。それならばと、ウィーン留学のお話を交えながら、非常に長い歴史があるオルガンを「知る」楽しみをお伝えしたいと思います。

 

 

過去に都築さんが出演したオルガンコンサートのチラシ(一部)。

 

──今後の主催コンサートについて。

都築 私は2018年に愛知県芸術劇場専属の初代オルガニストに就任しました。これまでの約6年間、出演者そして裏方としても携わったコンサートを含め、すべての事業にオルガンという楽器自体と演奏する人の魅力が詰まっています。これからもオルガンはもちろん、国内をはじめ海外で活躍されている素晴らしいオルガニストの方を、蓄積してきたネットワークや経験を通して皆さまにご紹介していきたいです。

 

 

 

──オルガニストを目指したきっかけを教えてください。

都築 中学3年の頃、豊田市コンサートホールの公演で初めてオルガンの音色を聞いて、直感で「これだ!」と思いました。おそらく、とにかく大きな楽器を一人で弾けることに魅力を感じたのでしょう。オルガニストの椎名雄一郎先生に習い始めてすぐに「オルガニストになりたい。」と言った記憶があります。藝大で基礎を固めた後、ウィーンへ留学。帰国すると日本の先生から「現地の先生のコピーみたい」と笑われてしまいました(笑)。それだけ影響を受けたということですね。専門的な話になりますが、アーティキュレーションという音の区切り方が大きく変わりました。

 

コンサートホールいっぱいに音を響かせたい

──仕事でやりがいを感じるときはいつですか?

都築 別のホールで演奏する場合はオルガンの仕様が異なるので、決められた時間内で音色を作るのは大変ですが、どのコンサートでも自分が鳴らしたかった音が空間全体に響くとやりがいにつながります。「愛知県芸術劇場の自主事業は、いい公演をやっていますね」といったコメントを残していかれる方もいらっしゃって、すごくうれしいです。人材養成の指導者としてのやりがいは、生徒さんの成長に尽きますね。音で成長を感じますが、そういう瞬間に立ち会えるっていいなと思います。

劇場スタッフとともに。都築さんを中心に、華やかなムードが広がります。

 

──オルガニストの必需品は?

都築 楽譜とオルガンシューズです。留学中にオーストリアからスペインへ移動するときにスーツケースが行方不明になってしまって、次の日に届いたから良かったものの、この2つがないと困ることに気づきましたね。楽譜の一つは20世紀で、もう一つが21世紀のもの。同じ曲が入っていますが、所々の音が変わっています。どんな研究がなされたのか、見比べながら知ると楽しいです。

 

J.S.バッハのオルガン作品集。

愛用するオルガンシューズ。

 

──学生さんに一言お願いします。

都築 大学に入学することがゴールではないですよね。大切なのは、そこから先を自分はどのように進んでいくのか。また、仕事だけではなく、プライベートも含めてライフプランを考えると、将来への意識も変わってくると思います。

 

仕事とは「ときめき」

──では最後に、あなたにとって仕事とは?

都築 「ときめき」ですね。それはオルガンの演奏を通して、みなさまにお届けできるもの。コンサートが始まってから終わるまでのどこか、ほんの一瞬でもいいので、誰かの心を動かすことができたらうれしいです。演奏中に「今、いい音が鳴っているな。すごく響いているな」と感じるときがあって、それが私にとっての「ときめき」。日々のことに追われているとなかなか感じられないものなので、まずは私自身が気持ちの余裕を持って、「ときめき」を感じられる人でありたいです。

 

 

出演公演はこちら

2025年8月27日(水)

オルガン・レクチャーコンサート


場所/愛知県芸術劇場コンサートホール(愛知芸術文化センター4階)

オルガン/都築 由理江(愛知県芸術劇場オルガニスト)

詳しくはこちら

 

※集まれ、未来のオルガニスト2025【上半期コース】新規受講生募集の受付は終了しました。【下半期コース】の情報が決まりましたら、愛知県芸術劇場の公式サイトでご案内いたします。

 

撮影/愛知県芸術劇場
撮影・取材・文/Re!na
編集/村瀬実希(MAISONETTE Inc.)

※ 掲載内容は2025年3月11日(火)現在のものです。

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