2025/01/09
愛知芸術文化センター&アートのお仕事 #01 舞台技術 こんな職業あったんだ!? 働く人インタビュー
世の中にはたくさんの職業があり、芸術文化の世界では表舞台に立つアーティストから裏方で支えるスタッフまで、実にさまざまな人たちが関わっています。そこで、愛知芸術文化センターで活躍するプロフェッショナルの現場を直撃して、お仕事を紹介するシリーズ企画がスタート!日々のやりがいやどんな思いで取り組んでいるか、普段は聞けない十人十色のリアルな声や視点をインタビュー形式でお届けします。「好きなことを仕事にしたいけど、どうしたらいいかわからない」「芸術や文化に興味はあるけど、どんな仕事があるのだろうか?」 「将来の夢がない。やりたいことがなくて困っている」と、進路選択に悩む学生さんも必見!新たな発見はきっとあるはず。未来のヒントを探してみませんか?
今回の働く人
峯健さん
Takeshi Mine
愛知芸術文化センター
愛知県芸術劇場
舞台技術グループ シニアエンジニア
- 目次 -
舞台技術がいないと、幕が上がらない!劇場公演を裏で支える縁の下の力持ち
──今の仕事内容を教えてください。
峯 舞台技術とは、舞台上で劇場の機構や機器などを扱う分野。大きく分けてハード面とソフト面に関わる技術者がいます。ハード面は劇場という施設や機構。舞台上で使用する備品や、照明・音響機材など物や設備の管理に携わる仕事です。
ソフト面は舞台公演の演出や内容。表現するために照明のデザインを考える人や音響などの機器を操作するオペレーター、ものを動かしたり音を鳴らしたりの合図などの仕事です。
このようないろいろな仕事がある中で、僕が舞台技術として携わっている主な仕事は2種類。一般の方に劇場を貸出して利用をサポートする「施設利用サービス事業」と、劇場が主催で自ら開催する鑑賞公演などの「自主事業」です。施設利用サービス事業では、ご利用者さまと打ち合わせをして、劇場をどのように使うか、公演の内容をはじめ、搬入車両や各種申請など、劇場として受け入れの仕事がメインです。プロの公演の他にも、例えば中学校の合唱コンクールなどもあります。慣れていない先生方もいらっしゃいますので、下見の際に希望を聞き、1学年の人数やピアノ、お客さまのことも考慮して、台の組み方や生徒さんの配置などをどういう風に見せれば一番見栄えが良いかを提案させていただく場合もあります。
自主事業では、舞台公演の創作にゼロベースから携わったり、国内外の団体の舞台作品の上演をプロデューサーとどのように実施するかを相談して一緒に進める仕事がメインです。劇場を案内する「げきじょうたんけんツアー」、劇場を一日無料開放する「愛知県芸術劇場オープンハウス」では図面や台本を書くことも担当しています。
──「げきじょうたんけんツアー」は、普段は見られない裏側を探検できる人気企画ですね。
峯 「げきじょうたんけんツアー」は劇場を探検しながらホールに隠された秘密を順番に解き明かしていく、小学1~3年生が対象のバックステージツアーの企画です。毎回少しでも異なるルートで、機構の動きや音楽を変えて、どのように見せていくかいろいろ工夫しています。
峯 このような演出を考えるうえで工夫したポイントは、お子さまと保護者・家族の方は別々のツアーにすること。子どもたちは学校以外に出かける時はだいたい保護者と一緒ですよね。なので、初めて別行動を取る機会として、大人が子どもたちを見送り、なるべく接する機会がないような動線にしています。探検中は親から離れて、隊長・副隊長やまったく知らない初めて会う子たちと一緒に行く冒険です。自分が狙ったところで、子どもたちがいい反応をしてくれると「良し!」となります。そして最後に保護者・家族の元へ子どもたちが帰っていくシーンにして、ご自宅で今日のことを話してもらえたらと思っています。
──舞台業界を目指したきっかけを教えてください。
峯 初めはこの世界には興味がなく、知らない世界でした。大学は関東で、建築を学びインテリアに興味を持つようになりました。そんなとき、テレビで日本にライトアップという文化を根付かせたパイオニア的存在の石井幹子さんの特集を見ました。そこで取り上げられていた東京タワーの外観照明を見たときのインパクトがとても強くて、「鉄塔がこんなにも美しくなるんだ」と感動したことを覚えています。少しキザな言い方かもしれませんが、建物は存在し続けるものだけれど、その中で展開される世界は時間や時代、その他諸々によって自由に形を変えることができる、そこに面白さを感じたんです。建築もインテリアも好きではありましたが、イベントのように一瞬一瞬が変化していくものに惹かれ始めました。社会人として3年ほど働いた後たまたまご縁があり、愛知の御園座で大道具のスタッフとして採用していただいたのが、この業界に入るきっかけです。15年ほど働いた後、こちらの劇場に移って10年ほど勤務しています。学生時代の経験で役立ったことは、建築学科で図面を書くベースができていたので、現在の仕事にも活きているかな。
──仕事でやりがいに感じることは何ですか?
峯 施設利用サービスでは、利用者さまにとって有意義なかたちになることがとても嬉しいです。また、施設利用サービスと自主事業に共通することでは、鑑賞公演などのイベントが何事もなく順調に終わることが一番良いですね。やはり生の現場では大小さまざまなことが起きるので、何かトラブルがあったとしてもきちんと乗り越え、無事に幕を下ろすこと。いろいろな立場になれるからこそ、それぞれに得られる喜びがあります。
──仕事で大変なことはありますか?
峯 その時々でもちろんありますが、最終的にはみんなが笑顔で終われば、それが何よりだと思っています。「ここでやってよかったね」と言ってもらえたり、スタッフ同士の良い関係性が築けたりすることができればより良いですね。
年齢・国籍問わず、全員で一緒に同じものを作り上げる仲間として、チームワークやコミュニケーションを大切に
──2024年の仕事で印象に残ったエピソードはありますか?
峯 やはり一番の印象は、夏の自主事業「NDT(ネザーランド・ダンス・シアター)プレミアム・ジャパン・ツアー2024」ですね。前回の2019年に来日したオランダの技術者たちが、今回もスタッフとして参加していたんです。お互いのことを覚えていて、最初から雰囲気が全然違いました。ツアー出発地の高崎で会った時から「おぉ、久しぶり!」で始まりました。初めからお互いを名前で呼び合える関係で、英語が得意ではない僕でもなんとなくわかり合えている感じがして、カンパニー側も日本側も新しいメンバーを含めてすぐに打ち解け合い、みんなが馴染んでいるような雰囲気が生まれていたんです。全員で一緒に同じものを作り上げるチームとして、不思議なご縁を感じる現場でした。
──仕事で必要なスキルは何ですか?
峯 シンプルですが、コミュニケーション能力はあった方がいいと思います。施設利用サービスでは、要望をしっかり聞き取ることや相手に気持ちよく接することが求められますし、自主事業では、日本人だけでなく海外のチームが関わる場合もあります。その際には、積極的に中に入っていける姿勢で。語学力があればもちろん有利ですが、たとえ語学力がなくても、舞台用語などの基本的な単語を覚えておくだけでコミュニケーションのきっかけになります。大切なのは、怖がらずに話しかけてみること、きちんと伝え合うこと。そして、わからないことがあれば素直に「わからない」と伝えること、わかる人に頼ることだと思います。
──働くうえで心がけていることは?
峯 僕が最も大事にしているのは、同じ職場で働く人たちとの接し方です。職場では年齢差があり、ベテランもいれば若手もいます。フランクになりすぎず、適度な緊張感を保ちながら相手を尊重して接することを意識して。最終的には一つのものを作るという目的に向かう同じ仲間です。コミュニケーションが取りやすく、インターンシップ生や経験の浅い人たちが「何かやってみよう」となる雰囲気を作ってあげること。それが良いチーム作りにつながると信じています。
──今後の目標はありますか?
峯 おかげさまで、国内外のさまざまな方と仕事をさせてもらう機会が多くあります。そういった方々と、もっと上手に良い関係を築ければいいなと思っています。振り返ってみると、本当にいろいろな人といろいろな形でつながることができています。体力的にも技術的にも、何かあったらすぐ動ける心身でいられるようにしたいです。
──進路を考えている学生さんに一言お願いします。
峯 僕の仕事は完全に土日休みではなく、基本的に不定休で勤務時間もバラバラです。平日の朝から夕方まで働くイメージとはちょっと異なるかもしれません。ただ舞台技術と言えども現場だけではないので、管理の事務の仕事であれば、定時勤務も考えられます。今は情報がたくさん手に入る時代です。愛知県内に限らず、日本全国や世界中に目を向けて情報を集めてみれば、いろいろな可能性を見つけることができますよね。 そこで、自分だったらどういう仕事がいいかなとまず考えてみましょう。「毎日決まった時間で働きたい」「全国津々浦々ツアーでぐるぐる巡りたい」「一つの劇場でやっていきたい」といった、自分に合ったスタイルを探してみるのがおすすめです。
峯 学生時代はいろいろなことを経験してください。自分の興味のあることだったら何でも良くて、この世界に入るために「これをやらなきゃダメ」ということはまずないと思います。本を読むでも、遊びに行くでも、英語や数学が得意でもいいです。飲食店のアルバイトで料理の手順を考える能力が仕事での段取りに役立ったり、何かしら活きてきます。
あとは、自分が自分になれる時間を持つこと。一人でやる仕事はほぼなくていろいろな人と関わるので、うまくいかない瞬間もあるじゃないですか。そこで自分に合ったリフレッシュ方法を見つけておいて、イライラを次に持ち越さないとか、新しい気持ちに切り替えられるのが結構大事です。寝る、読書、おいしいものを食べるなど何でも良いので、気持ちを上手にコントロールすること。同じ作品に携わる以上、みんなで目指すゴールは一つです。いろいろな考え方やアプローチを持つ人がいる中で、そのゴールに向かって自分が何をすべきか考え、ベストを尽くすことが大切だと思います。
仕事とは「人」
──では最後に、あなたにとって仕事とは?
峯 いろいろな人との出会い、付き合いがあり、成立する世界。すべてにおいて「人」かなと思います。その人によって、舞台の雰囲気も変わってきます。決して自分一人じゃなくて、人がいて、自分がいるイメージです。NDTのメンバーと数年後に再会したり、「げきじょうたんけんツアー」に参加した子どもたちがまた劇場に来てくれたり、大人になって一緒に仕事をするかもしれません。それをつないでいくのが芸術文化ですね。