2025/02/04
第28回アートフィルム・フェスティバルでオリジナル映像作品 吉開菜央監督『まさゆめ』世界初公開&上映後トークも!
愛知芸術文化センターは、1992年の開館以来、「身体」をキーワードとした実験的な映像作品「オリジナル映像」の制作を継続してきました。1年に1本のペースで映像作家や監督を選定し委託制作するもので、2013年までは芸文センター内の愛知県文化情報センターが担当、2014年から組織改編に伴い愛知県美術館が継承して「愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品」と称しています。最新作を完成記念上映会として単独で初公開していましたが、1996年からはこの年始まったアートフィルム・フェスティバルのなかでも公開しています。これまでに作られた作品は、国内外数々の映画祭への出品や受賞といった実績を重ねてきました。
2024年11月23日(土・祝)・24日(日)に「第28回アートフィルム・フェスティバル」を開催しました。オリジナル映像セレクション特集の最後を飾ったのは、愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品最新第32作の吉開菜央(よしがい・なお)監督『まさゆめ』(2024年)。完成披露上映と、その後の吉開監督と杉原永純氏(福岡市総合図書館学芸員)との対談の様子をレポートします!
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第28回アートフィルム・フェスティバル
「アートフィルム・フェスティバル」は、実験映画やビデオ・アート、ドキュメンタリー、フィクション等のジャンル区分にとらわれず、独自の視点からプログラムを構成する特集上映会です。愛知芸術文化センター12 階 アートスペース Aを会場にして開催しました。
愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品最新第32作の吉開菜央監督『まさゆめ』(2024年)
『まさゆめ』は吉開監督自身の禅寺での修行のなかで、「食べる」「寝る」「呼吸する」という行為を改めて意識した体験がきっかけとなって制作されました。監督であり主演も務めた吉開菜央さんには、制作にまつわるエピソードを訊いたインタビューも実施。そちらは2025年3月以降に『AAC Journal』と『AACタイム』で掲載予定です。乞うご期待!
映画作家・ダンサーなど多方面で活動している吉開菜央
吉開菜央
Nao Yoshigai
1987年山口県生まれ、東京都在住。2010年日本女子体育大学舞踊学専攻卒業。12年東京藝術大学大学院映像研究科修了。映画作家・ダンサーなど多方面で活躍し、映像作品においても、自らの身体感覚を大切にしながら紡いでいくシーンに定評がある。15年『ほったまるびより』で第19回文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門新人賞受賞。19年『Grand Bouquet』でカンヌ国際映画祭の監督週間短編部門正式招待を受ける。監督・出演した映画『Shari』はロッテルダム国際映画祭2022に公式選出されている。
Web
YouTube
https://www.youtube.com/@%E5%90%89%E9%96%8B%E8%8F%9C%E5%A4%AE-s1v
上映後、吉開監督と杉原永純氏(福岡市総合図書館学芸員)による対談も
最初の挨拶では「こんなにもプライベートなことを大勢の前で観られるって、なかなかないと思います。始まる前までドキドキハラハラしていました。一緒に観てくださった皆さん、ありがとうございます」と吉開監督。プロデューサー・あいちトリエンナーレ2019映像プログラムのキュレーターとして、監督と長年にわたって交流のある杉原永純さんと一緒に、本作を振り返っていただきました。
杉原さんからは「シリアスなテーマではあるけれども実験的でポップな要素が加わり、こんな風に絶妙なバランスで成り立つ映像作品があるんだと、正直驚きました。吉開さんの作品のなかでもかなり異色だと思います」と一言。
吉開監督の禅寺での体験談やそこでの気づき、修行から下山したばかりの感度が高まっているタイミングで今回の企画を出したことや、作品のなかに散りばめられた写真・映像の素材、核となるシーンを撮影した小田香さんとの制作秘話、吉開監督が影響を受けている野口三千三の体操メソッドを意識した「肉袋」と呼ぶ体の使い方まで、気心の知れた二人による充実したトークが繰り広げられました。
来場者からの質問タイム
終盤には「会場の皆さまからも感想をいただきたい」と杉原さんが参加者の方々を巻き込み、質疑応答の時間が設けられました。本作で初めて吉開監督の作品を観る方もいれば、これまでの作品を追い続けている方もいらっしゃって、熱のこもった感想&質問が続出。
- 自分で気づいたことや伝えたいことが明確にあって、それをもとに作っているのか。あるいはそうではなく、徐々に考えながら作っていくものなのか。そのあたりはいかがでしょうか。私には後者に見えました。
吉開 映画を作るとき、毎回紙芝居を作っていて、その紙芝居が私にとっての脚本です。今回も同じように作っていて、その時点ではアイデアの種。そこからどう肉付けするかは実践ですね。まずはやってみることを大切に、試行錯誤しながら作っています。
杉原 作品を通じて、吉開さんは人の話を聞くのが上手な方という印象を受けました。他者と関わり合う禅寺の現場で必要な要素だったんだろうなと。
吉開 「話すことは赦す(ゆるす)こと」という禅の教えがあり、人と会話することを推奨されていました。普段の生活では会わないような人たちと会って、話すことができたのはすごくよかったです。その人たちとはその場限りの関係性だったので、それも大きかったのかもしれません。
- この映画を通して、生きていることの素晴らしさを伝えたかったように感じました。生きるということについて何かお話しいただけたらうれしいです。
吉開 生きていることは素晴らしいみたいなことも一般的にはあると思うんですけど、禅の修行は、何かが素晴らしいとか素晴らしくないとかいうよりも、一つ言えることは、腸内環境が良くなったみたいな、なんかそういうことなんですよね。踊りって、床の硬さとか空気とか、いろいろなものを知る必要があると思っていて。その経路の一つに“腸”が増えて、腸で地球と対話をしているような、「今日も地球からのお便りが届いた」みたいな、そんな感じです。
- これまでの作品は短編でしたが、今回の尺は110分あるということで、どんな映画になるのかとても楽しみでした。吉開さんご自身が出演されていたので、より一層興味が湧きました。長編になった理由が聞きたいです。
吉開 もともとドキュメンタリーに興味があって、ドキュメンタリーではない要素も含めながら映画を撮ってみたいと思っていました。それもあってか、長編になりそうな予感はしていて、肉付けしていった結果、長くなったという感じですかね。
杉原 内容は30分でも伝えられるかもしれないが、110分になった必然性はあると思う。吉開さん自身がちょっとずつ変わっていく様子は、情報としてだけ伝わるんじゃなくて、それを見つめていくような時間が観る側に必要なんじゃないかなと思いました。
「第28回アートフィルム・フェスティバル」レポートはいかがでしたか。今後も吉開菜央監督『まさゆめ』(2024年)をはじめ、愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品にご注目ください。次回のアートフィルム・フェスティバルは2025年に開催予定です。