2024/09/03

現代アートいいっすね〜!家具販売員が訪れるアブソリュート・チェアーズ展

家庭や職場、学校に限らず、生活空間において欠かせない椅子。普段何気なく座っている方が多いのではないでしょうか。

 

愛知県美術館では、現代アート好きはもちろん、椅子好きも必見の企画展「アブソリュート・チェアーズ 現代美術のなかの椅子なるもの」が2024年9月23日(月・振休)まで開催中です。主に戦後から現代までの美術作品における「椅子なるもの」の表現に着目した展覧会。作品を見て、座って(着席可能マークがあるものはぜひ!)、現代社会についても考えてみるきっかけにしてみませんか。

 

今回は日常的にたくさんの椅子を見ているゲストとして、名古屋にあるカリモク60、カリモクニュースタンダードの専門店「大須DECO」店長の神谷一幸さんと一緒にレポートします。担当学芸員の鵜尾佳奈さんによるガイドとともに作品鑑賞を楽しみ、それぞれが「いいっすね〜!(いい椅子)」と心が動く瞬間は...?

 

神谷さんに聞いた椅子選びのポイントは、「販売員としては、椅子としての機能、デザイン的に完成されていること。そして、この椅子ってこういうところが面白いんですよと伝えられるストーリーや買いやすい価格もありますね。自分が個人的に選ぶ基準の一つとしては、テンションが上がるものを長く使う上で大切にしています。今回はいわゆる椅子ではない芸術品なので、定義がちょっと難しいですね」

 

では、早速行ってみましょう!

 

「アブソリュート・チェアーズ 現代美術のなかの椅子なるもの」で、いいっすね〜!(いい椅子)な作品鑑賞


アブソリュート・チェアーズ展は、埼玉県立近代美術館に続いて愛知県美術館にて開催(〜2024年9月23日)。

本展の発案者、埼玉県立近代美術館長・建畠 晢氏は2010年あいちトリエンナーレ芸術監督も務めました。

 

デザイナーや建築家のみならず、アーティストにとっても魅力的なモチーフとなってきた椅子。玉座に代表される権力の象徴となることもあれば、車椅子のように身体の補助となることも。本展では、戦後1945年以降に活動したアーティストたちの作品を、椅子の日常的な用途から逸脱し、外観や様式よりもコンセプトや意味に重きを置く点で「アブソリュート(絶対的)」な椅子と呼んでいます。

 

第1章 美術館の座れない椅子

(手前)高松次郎《複合体(椅子とレンガ)》1972年 The Estate of Jiro Takamatsu
(奥)マルセル・デュシャン《自転車の車輪》1913年 / 1964年(シュヴァルツ版) 京都国立近代美術館

 

国内外の平面・立体・写真・映像・ダンスなど幅広いジャンルの椅子をめぐる作品約80点を5つの章にわけて展示。第1章では「美術館の座れない椅子」をご紹介します。ここにあるものはすべて、椅子に何かしら手を加えることで「座る」機能を剥奪し、オブジェへと変換しています。マルセル・デュシャンの《自転車の車輪》は既製品のみで作品を構成したことで、現代美術史上重要な分岐点をつくった作品です。「デザインチェアとはまったく異なる発想で作られています。椅子の上に車輪を乗せることで、座れなくすると同時にオブジェ化しています」と鵜尾学芸員。高松次郎の《複合体(椅子とレンガ)》の場合、レンガに椅子の脚を置くことで座面が平行ではなくなり、「座れない椅子」になっています。

 

 

岡本太郎《坐ることを拒否する椅子》1963年 / 1990年頃 甲賀市信楽伝統産業会館

 

“快適さ”を重視した椅子が多く見受けられるようになった1960年代。しかし、岡本太郎にとって“快適さ”は敵であり、「人間というのは、ひとところに止まってはならない。休むのは束の間。歩いて戦いに赴かなければならない」と考えていたと言います。鵜尾学芸員は「モダン・ファニチャーへの批判が如実に表れた作品です。岡本太郎は自身の考えや芸術を普及させることを重視しているため、同じものがいくつも制作されています」とコメント。それに対して「うちの店(大須DECO)にあってもいいと思います。僕はこういうのが好きです」と神谷さん。

 

 

ジム・ランビー《トレイン イン ヴェイン》2008年 公益財団法人アルカンシエール美術財団 / 原美術館コレクション

 

ジム・ランビーの《トレイン イン ヴェイン》は、タイトルにあるように、列車のようなかたちが印象的。作家がバンドとDJ活動をしていたことから、彼のバックグラウンドである音楽的ニュアンスも感じられます。「椅子の造形的な美しさを楽しめる作品です。椅子を真っ二つにしているので、これもある意味座ることを拒否していますね」と鵜尾学芸員。制作する上で、アーティストが音楽を聴きながら即興的に組み上げていったそうです。

 

第2章 身体をなぞる椅子

 

 

檜皮一彦《walkingpractice / CODE: Knitting_record [SPEC_ APMoA]》2024年 作家蔵

 

第2章は「身体をなぞる椅子」。椅子は人間のからだを模しているので、時に身体そのものの延長として機能します。まず注目したいのは、檜皮一彦による本展のための新作《walkingpractice / CODE: Knitting_record [SPEC_ APMoA]》。自身も使用する車椅子や身体性をテーマとしたインスタレーション作品を手掛けていて、本作は車椅子の車輪の回転を動力にしてマフラーを編む「車いす編み機」。地面の凸凹を目地の乱れとしてマフラーに記録し、車椅子ユーザーにとって振動や障壁となるものが可視化されるのが特徴です。名古屋の観光地を巡りながら10時間歩いて作られました。制作過程の記録(映像)には、見覚えのある景色も...?!

 

ハンス・オプ・デ・ビーク《眠る少女》2017年 タグチアートコレクション / タグチ現代芸術基金

 

ハンス・オプ・デ・ビークの《眠る少女》を見て、「小さな娘も自宅でよくこうなっていますね。ちょうど昨日も僕が仕事から帰ったら、ソファで寝ていたので寝室まで運びました(笑)。この企画展に限らず、美術作品の多くは日常からかけ離れています。ですが、これは普段の生活でも見られるシーンで、わざわざ解釈しようとしなくてもいい僕のようなアートにそこまで詳しくない人でも親しみやすいと思います」と神谷さん。鑑賞後、すべての作品の中で一番お気に入りの「いいっすね〜」にも選ばれました。

 

 

 

第3章 権力を可視化する椅子

 

ジョージ・シーガル《ロバート&エセル・スカルの肖像》1965年 愛知県美術館

 

第3章は「権力を可視化する椅子」。その名のとおり、権力にまつわる椅子が集まっています。ジョージ・シーガルの《ロバート&エセル・スカルの肖像》を見て、「これぞ、偉大なパトロンの玉座。ファッションは当時の最先端ですが、椅子はちょっとクラシックというのが興味深いです」と鵜尾学芸員。それに続いて、神谷さんが「ベロアは高級な素材ですからね」と一言。

 

第4章 物語る椅子

 

潮田登久子《マイハズバンド》1981年 / 2023年 作家蔵

 

第4章は「物語る椅子」。椅子は私たち人間の時間をどのように物語るのでしょう。潮田登久子の《マイハズバンド》を見て、「使わなくなった椅子がオブジェ のように部屋中にいっぱいあるのがわかります。その上に洗濯物が山積みになっているのを見ると、座る以外の機能と言いますか、役目があることを思い出させてくれます(笑)」と鵜尾学芸員。

 

神谷さんは「椅子が生活にとけ込んでいるのは嬉しいこと。《眠る少女》もそうですが、椅子を通して日常が見えるのが『いいっすね〜!』。皆さん、高価な椅子だと特に大切にしないといけないと思いがちですが、汚れたら掃除すればいいですし、壊れたら修理すればいいですから。店では気にせず使ってくださいと勧めています」と言います。

 

 

 

宮永愛子《waiting for awakening -chair-》2017年 © MIYANAGA Aiko Courtesy of Mizuma Art Gallery

 

宮永愛子の《waiting for awakening -chair-》は、大原美術館の創設者である大原孫三郎さんの別邸、有隣荘で使われていた椅子を3Dスキャンして、昇華性のあるナフタリンでかたどり、透明樹脂に封入したもの。「宮永さんが有隣荘で個展を開催したことをきっかけに制作されました。この椅子がもつ歴史や記憶はもちろんのこと、樹脂の中には制作現場の空気が気泡として入っていて、制作にかけた時間やプロセスも閉じ込められています。ナフタリンは空気に触れることで気化しますが、なくなるのではなく、これらが目覚めることを待っているのです。つまり、未来への時間をも閉じ込めていることになります」と鵜尾学芸員。

 

第5章 関係をつくる椅子

 

オノ・ヨーコ《白いチェス・セット/信頼して駒を進めよ》1966年 / 2015年 タグチアートコレクション / タグチ現代芸術基金 

 

最後に、第5章では「関係をつくる椅子」が大集合。椅子が向き合って並ぶことで、「人間関係やコミュニティを作る」という機能に着目しています。オノ・ヨーコの《白いチェス・セット/信頼して駒を進めよ》は、平日のみ着席可能で、チェスをプレイすることもOK。駒も盤面も白く塗られたチェス・セットは、どの駒が自分の駒であるかを互いに思い出させながら、目前に座る相手との信頼に基づくゲームが要求されます。

 

山田毅と矢津吉隆による資源循環プロジェクト、副産物産店のいろいろな椅子を集めた展示室も。座れる椅子が多いので、気になる椅子に座って休んだり、展覧会の感想を話し合ったりする時間にもぴったりです。

 

 

 

副産物産店は2023年7月に愛知県内、8月に埼玉県内のアーティストのスタジオや美術大学を訪問し、制作現場で見つけた廃材を寄せ集めて、副産物の“仕入れ”を実施。数ある椅子の中で、あなたのお気に入りの一脚は?

 

副産物産店《Absolute Chairs #01_rodinʼs crate2024 年 作家蔵

 

会場入口の手前に展示されているのは、副産物産店が本展のために制作したもので、愛知県美術館所蔵のオーギュスト・ロダン《歩く人》を輸送するために使われていた箱(クレート)を⽤いた作品です。座って記念撮影をどうぞ。

 

 

 

鑑賞を終えて

「学芸員・鵜尾さんの解説がすごく面白くて、好奇心をもって作品を鑑賞させていただきました。こんな機会はなかなかないので楽しかったです。ギャラリートーク(学芸員による展示説明会)に参加してみるのも良さそうですね」と神谷さん。アブソリュート・チェアーズ展での作品鑑賞は、「いいっすね〜!」と話を交えて終始和やかなムードで終了。ご来館ありがとうございました。

 

こちらもCHECK①

第5章「関係をつくる椅子」の出品作《Re: ローザス!》は、ベルギーを代表するダンス・カンパニー、ローザスが椅子を使ったダンスの振り付けのレクチャーを公開し、このダンスを踊った動画を募集するというプロジェクトです。この活動は継続中で、7月25日(木)愛知芸術文化センターにてダンスワークショップの成果発表と映像撮影が行われました。撮影した動画は、8月1日(木)以降、展示室内で《Re: ローザス!》プロジェクトの一部として展示。同じタイミングでYouTubeにアップロード(限定公開)プロジェクトのウェブサイトに投稿されました。劇場と美術館による連携プロジェクトをお楽しみください。

 

こちらもCHECK②

アブソリュート・チェアーズ展の会期中、愛知県美術館 ミュージアムショップでは、出品アーティスト・副産物産店のプロダクトを販売しています。椅子やキーホルダーなど暮らしの中にアートを取り入れて、モノの価値や可能性を考えてみてはいかがでしょうか。

 

2024年7月18日(木)〜9月23日(月・振休)

アブソリュート・チェアーズ 現代美術のなかの椅子なるもの

 

場所/愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)

時間/10:00~18:00
※金曜~20:00(入館は閉館の各30分前まで)

休館日/毎週月曜日(ただし8月12日[月・振休]、9月16日[月・祝]、9月23日[月・振休]は開館)、8月13日(火)、9月17日(火)

料金/一般1,500(1,300)円、高校・大学生1,300(1,100)円、中学生以下無料

※( )は前売券および20名以上の団体料金

展覧会公式サイトはこちら

 


Special thanks!!

大須DECO by SHIOGAMA APARTMENT STYLE
場所/愛知県名古屋市中村区平池町4-60-12 グローバルゲート2F
電話番号/052-485-8218

 

INFORMATION
カリモク60、カリモクニュースタンダード、カリモクキャット、天童木工、MAGISの正規販売店。店頭での対面販売を大切に、店長の神谷一幸さんをはじめ、カリモク60ブランドを熟知する「カリモク60シルバーマイスター」が在籍する、名古屋で唯一のショップです。名作家具から業務用食器まで、ロングライフデザインの魅力に触れられます。

Web http://www.osudeco.com/
Instagram @osudeco
X @osudeco

 

撮影・文/Re!na 編集/村瀬実希(MAISONETTE Inc.)
※ 掲載内容は2024年9月2日(月)現在のものです。

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